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ショウジョウバエ

節足動物昆虫綱 双翅目 ショウジョウバエ科 ショウジョウバエ属に属する種を総称してショウジョウバエと呼ぶ。赤いを持つことやに好んで集まることから、顔の赤い酒飲みの妖怪「猩々」にちなんで名付けられた。日本では俗にコバエ (小蝿) やスバエ (酢蝿) などとも呼ばれる。学名の Drosophila は「湿気・露を好む (drosos + philia)」というラテン語にちなむ。これはドイツ語での通称が露バエであることによる。英語では俗に fruit fly (果実蝿), vinegar fly (酢蝿), wine fly (ワイン蝿) などと呼ばれる。

多くの種は、体長3mm前後と小さく、自然界では熟した果物類や樹液およびそこに生育する天然の酵母を食料とする。酵母は果実や樹液を代謝しアルコール発酵を行うため、ショウジョウバエは酒や酢に誘引されると考えられる。アフリカ中央部に起源を持ち、現在では世界各地の暖かい地域で見られる。寒い地域でも夏場だけ移動してきたり、暖かい場所で冬を越したりする。冬眠することはない。日本では野外や人家で普通に見られる。汚物には接触しないため、病原菌の媒体になることはない。

現在、ショウジョウバエ科には3千を超える種が記載されている。ショウジョウバエ属はHirtodrosophila, Pholadoris, Sophophora, Drosophila, Siphlodora, Sordophila の6亜属に分類される。生物学で単にショウジョウバエという場合は、最も広く用いられている種であるキイロショウジョウバエ D. melanogaster を指すことが多い。以降、この記事でもショウジョウバエという言葉を単独で用いた場合はキイロショウジョウバエを意味する。

(余談だが、和名にはキイロとつくが、学名では「黒い腹」という意味の melanogaster となっている。これは体色は黄色がかっているが腹部の末端が黒いためだろう)

キイロショウジョウバエ

キイロショウジョウバエ成虫オス
分類
界:  動物
門:  節足動物
綱:  昆虫
目:  双翅目
亜目: ハエ亜目
科:  ショウジョウバエ科
属:  ショウジョウバエ属
亜属: Sophophora 亜属
種:  キイロショウジョウバエ
学名
Drosophila melanogaster Meigen
和名
キイロショウジョウバエ
英名
Fruit fly

Table of contents
1 モデル生物としての生物学的特性
2 ショウジョウバエ研究史
3 ショウジョウバエの遺伝子名
4 もっと詳しく知りたい人に

モデル生物としての生物学的特性

キイロショウジョウバエのモデル生物としての利点は以下のことが挙げられる。

研究室での飼育

ショウジョウバエの培養試験管

ショウジョウバエの世代間隔は10日 (25℃)。寿命は2か月。一匹のメスは、1日に50個前後のを産むことができる。体長2~3 mm。研究室では、成虫・幼虫ともに乾燥酵母、コーンミール、蔗糖などを寒天で固めたエサで飼育される(写真) 。

発生の概略

ショウジョウバエは胚期、幼虫期、蛹期、成虫期の4つの発生段階をもつ完全変態昆虫である。幼虫期には2回脱皮を行い、それぞれ一齢幼虫、二齢幼虫、三齢幼虫と呼ばれる。25℃で飼育すると、胚期: 一日、一齢幼虫期: 一日、二齢幼虫期: 一日、三齢幼虫期: 二日、蛹期: 五日を経て成虫になる。

卵には細胞核や栄養だけでなく、様々な遺伝子産物が母親から供給されている。これらの遺伝子産物には卵の中で片寄って存在しているものがあり、この偏りが胚内での位置情報となり、体軸や生殖細胞の形成に重要な役割をもつ。受精核は分裂して細胞表層に移行し、表割を行う。幼虫期の脱皮・変態幼若ホルモンエクダイソンによって制御されている。幼虫の体内には将来成虫の体を形成する、成虫原基という組織がある。成虫原基は蛹期に増殖・分化し成虫の体になる。

染色体・ゲノム

四対の染色体があり、性染色体を第一染色体として、常染色体を第二、第三、第四染色体と呼ぶ。性染色体はヒトと同じ XY 型だが性決定機構は異なる。Y 染色体と第四染色体は非常に短いため、しばしば無視される。幼虫の唾液腺の染色体は核分裂を伴わずにDNA複製を繰り返し、多糸化するため非常に巨大になる。この唾腺染色体に見られるバンドパターンは詳細に記載され、組み換え価との比較から細胞学的遺伝子地図が作成された。ゲノムサイズは1.65x108塩基対、おおよそ14,000の遺伝子があると推測されている。2000年には (ほぼ) すべてのゲノム塩基配列が解読された。多細胞生物としては線虫に次いで二番目 (ゲノムプロジェクト)。

ショウジョウバエ研究史

ショウジョウバエ研究は一世紀にわたる歴史を持つ。初期は遺伝学の材料として、戦後は主に発生生物学の材料として用いられている。

古典遺伝学の時代

ショウジョウバエが生物学の材料として登場するのは、1901年、当時ハーバード大学にいたC.W.ウッドワースが大量飼育し、W.E.キャッスルに遺伝学の材料として薦めたのが最初と言われる。遺伝学の研究材料として有名にしたのはT.H. モーガンとその一派 (ブリッジス、スターテヴァントら)。彼等は1908年からショウジョウバエを用いはじめ、1910年には最初の突然変異体、white (白眼) を発見した。さらに、変異体と異常染色体の関連を観察し、遺伝子が染色体上に存在することを証明した。この業績によりモーガンは1933年ノーベル生理学・医学賞を受賞。

遺伝学研究では突然変異体を用いるのが常法だが、自然状態で突然変異が起こる確率は非常に低く、発見が困難だった。この問題はH.J.マラーの研究によって解消される。マラーは、ショウジョウバエにX線を照射すると、表現型に遺伝的な影響を及ぼすことを発見し、これがX線による遺伝子変異であることを明らかにした (1927年)。この業績により彼は1946年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。以降、多数の突然変異体系統や異常染色体系統が樹立された。

このようにして古典遺伝学は隆盛を見る。しかしここまでの遺伝学では表現型の観察は主に成虫を用いており、発生に関する知見は乏しかった。

分子生物学の導入と発生学への参入

遺伝子発現の定義が分子生物学によってなされたことにより、遺伝学と発生学は統合されていく。これを受けて、ショウジョウバエでも発生研究が始まる。遺伝子クローニングや遺伝子導入といった分子生物学的手法が次々と導入された。

ホメオティック遺伝子をはじめとした発生遺伝学的研究により、ショウジョウバエとヒトの発生が共通の機構により制御されていることが解明された。このことは線虫を始め、他のモデル生物研究を加速させた。1995年に「初期胚発生の遺伝的制御に関する発見」によりE.B.ルイス, C.ニュスライン-フォルハルト, E.F.ヴィーシャウスらがノーベル生理学・医学賞を受賞していることは象徴的である。

ゲノムプロジェクトによるゲノム解読終了は、分子生物学的研究をさらに発展させることになる。また比較ゲノム学的な観点から、進化の研究も行いやすくなった。

発生生物学以外の研究分野では

発生生物学以外の研究分野におけるショウジョバエ研究について簡単に紹介する。

ショウジョウバエの遺伝子名

遺伝子の命名法は生物種によって多少異なる。ここではショウジョウバエについて紹介する。

突然変異の解析から同定された遺伝子は、最初に得られた変異体の表現型にちなんだ命名をされる。この場合、遺伝子はその機能と逆の名前がつけられる。遺伝子名は斜体で表記し、劣性変異は小文字で、優性変異は大文字で始める。近年は、ほ乳類などで解析が進んでいたものをショウジョウバエでも逆遺伝学的に研究する例も増え、その場合はしばしば Drosophila の省略である d, D を、または D. melanogaster の Dm を遺伝子名の前につける。通常、遺伝子名は略称で表記される。初期に発見された遺伝子は一文字や二文字 (例えば whitew) だったが、近年では三文字以上を用いる。

例) 遺伝子名 (遺伝子記号) - 備考

ショウジョウバエ研究者はウィットを利かせた (ときとしてダジャレのような) 遺伝子名を付ける伝統を持つ。例えば musashi (毛が二本になる→二刀流の宮本武蔵), satori (オスが交尾をしない→悟りの境地), hamlet (神経になるべきかならざるべきか→シェークスピアの戯曲「ハムレット」) など。多生物種の研究者の中にはこのような習慣に否定的な意見をもつ人もおり、Nature 誌で議論がなされたことがあったが、ショウジョウバエ研究者は概ねこの伝統を誇りにしているようである。

もっと詳しく知りたい人に

参考文献

外部リンク





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