危険運転致死傷罪(きけんうんてんちししょうざい)は、危険な自動車(四輪以上)運転によって人を死傷させる犯罪。刑法208条の2に規定されている。過失致死傷や業務上過失致死傷の規定のある刑法第28章ではなく、故意犯たる傷害罪の規定のある刑法第27章に規定がおかれている準故意犯である。
従来、交通事故の加害者は刑法211条の業務上過失致死傷罪によって処理されてきた(故意がないことが前提である)。しかし、1999年11月に東名高速道路で飲酒運転により幼児二名を死亡させる事件(東京都世田谷区)が起こったことを一つの機縁として、悪質な交通事故の惹起者に対する法定刑の甘さ(5年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金。つまり、最高で懲役5年)が認識された。その結果、危険運転致死傷罪を新設する刑法改正案が2001年11月28日に国会で可決されて成立し(平成13年12月5日法律第138号)、刑法に導入されることとなった。公布の日から起算して20日を経過した日から施行することとされ、2001年12月25日に施行された。この結果、法定刑は、致傷に対しては10年以下の懲役、致死に対しては1年以上の有期懲役(最高15年)が課されることとなった。
なお、これに対応して、自動車の運転による業務上過失致傷に対して、刑の裁量的免除を可能とする規定が新設された(刑法211条2項:「自動車を運転して前項前段の罪を犯した者は、傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」)。
更に、罰金の徴収未済を減らすために刑事訴訟法も改正され、検察官・裁判所・裁判官が、裁判の執行に関して必要があると認めるときは、警察や地方公共団体・法務局・金融機関・電話会社などに必要な事項を照会することができるとする規定を新設した(刑事訴訟法507条:「検察官又は裁判所若しくは裁判官は、裁判の執行に関して必要があると認めるときは、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」)。
構成要件には大きく分けて四つの場合が規定されている。いずれも、四輪以上の自動車を走行させた場合であり、二輪車の場合は該当しない。
- 飲酒や薬物による酔っ払い運転:「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者」(1項1文)
- スピードの出しすぎ・制御技能の欠缺(無免許運転など):「その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者」(1項2文)
- 幅寄せなどの妨害:「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者」(2項1文)
- 信号無視:「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者」(2項2文)
条文
第208条の2
- アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
- 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
外部リンク